出来上がった綺麗な琥珀色を彼の前に差し出した。


ことり、と出来るだけ静かに置いたつもりなのにその表面に波が広がる。

カップから離した私の指先は緊張だか後悔だかに微かに震えていて。ああ、触れてはいけないと分かっていたのに。


香ばしい香りがふわりと立ち上る。


彼は、見事に私が予想した通りの反応を示した。

差し出されたものを覗き込んだ後、こちらに向けられた双眸は先程までとは打って変わり、明らかなまでの嫌悪感を孕んでいる。



何か、言わなきゃ。……、何を?


「……お酒、まだ作れないんです。コーヒーは割と上手く淹れるようになったんですけど」


自分でも何をしているんだと後悔し始めたところだけど、もう手遅れ。相手を窺いながら慎重に言葉を紡ぐ。

心なしか、声が震えてしまった。



お酒が作れない、というのはもちろん嘘。相手がアルコールをオーダーしたことだってもちろん分かっていた。でも、アルコールは彼が求めているものではないような気がした。


怪訝な表情を隠すことなく全面に押し出していた彼だったが、何故かふっと泣いているように見えた。