春色デイジー

彼女に向かって、私は今その春斗さんに悩まされているんだ、なんてことは絶対に口に出してはいけないことだと、否応無しに防衛本能的な何かが処理した。


「先生っぽくないよね」

そう言って、先ほどの曖昧な返事を隠した。


すると里奈は満足そうに笑う。
……だから、苦手。さらに重さを増した肺内の空気を静かに吐き出した。


授業が始まったにも関わらず、スーツの着こなしや挨拶の謙虚さが!なんて女の子の顔で語る里奈に相槌を打ちながら、また先程の悩みを引っ張り出す。


あ、真子に相談してみよう。

結局、他力本願ということで。私は放課後になるのを待つことにした。今日は運良くバイトも休み。


かつかつと響くチョークの音、それから里奈の話を聞きながらうとうととしていると終業のチャイムが鳴った。


それまで永遠と話し続けていたことと、それなのに一度も当たらなかった里奈によく分からない尊敬の念を覚えた。


「そんじゃ、帰るねっ」


ようやく満足したらしく、語尾に音符が付きそうな程に機嫌が良い里奈を見送った。