春色デイジー

春斗さんが話し始めると、色めき立った黄色い声がしん、と静かになる。

教頭先生が少しだけ気の毒だ。


女子高生は、イケメンとか大人の男性とかに弱いんだ。なんて現金な集団かしら。

そんな私も、少なからず体温が上がってしまった気がする。けれども、彼女たちと同じだと思いたくない自分がいるのも確かだった。

イケメン、大人の男性、素敵だけどなんだか私には現実味のないものに思えた。


私の隣に並ぶ真子は、全く興味を示さずに携帯を操作している。そういうところが好きなのだ。



「本日から川岸先生に代わり、皆さんの英語を担当させて頂くことになりました。酒井春斗です。昨年、採用試験を合格したばかりなので、先生1年生です。至らない点もたくさんあると思いますが、皆さんと一緒に僕も成長していけたら嬉しいです。どうぞ宜しくお願いします」


そう言い、軽く頭を下げる春斗さん。いや、……酒井先生。

まさか、昨日言っていた新しい仕事が教師だとは、あの場にいた誰もが思わなかっただろう。


細身のスーツを纏い、センスの良いネクタイを締めている。お洒落だ。シンプルな着こなしからでも、それははっきりと伝わってくる。

暗い店内では黒に見えた髪の毛は、落ち着いたダークブラウンだったらしい。毛先を程よく遊ばせている。きっと誰が見ても好印象を受けるであろうポイントを、彼は分かっているのだろう。


営業スマイル、とでも言おうか、にこにこと愛想の良い笑顔を見せている。


私が観察いている間にも、彼女いますか?なんて四方八方から飛んでくる質問を彼はやんわりと躱しながらステージをから降りて行った。