赤々とした世界に包まれていた。

 ごうん、ごうんと爆音が耳に届く。

 熱風が肌を焦がし、身体が燃えるように熱い。

 どうしようもなくて、どうすることもできなくて。

 誰か助けて、と震える唇は形を作るだけで声にはならない。

 どこかから聞こえてくる叫び声が、まるで超音波のように頭を揺らす。

 息苦しい。息ができない。

 誰か、誰か――


「たすけて……!」



「大丈夫かい?」

 しゃがれた声に目を開けると、前方の運転席から顔を覘かせて、年配の男が心配そうにこちらに視線を向けていた。

 男の顔を確認して、自分が送迎のマイクロバスに乗っていたことを思い出す。

 座っているのは最後部の座席で、どうやら窓に頭をもたれて眠ってしまっていたらしい。

「だい、じょうぶ……です……」

 少し位置のずれたウェリントンの黒縁眼鏡を掛け直し、榛名詩は恥ずかしそうに顔を俯けた。

「着いたけど、本当に平気かい?」

 言われて窓の外を見てみると、広大なコースが目に入った。
 一面コンクリートが広がる中に緑がまばらに見えるコースには、何台もの同じ自動車があちこちを走り回っている。

 坂道や踏切に見立てた場所、障害物などが点在しているそこは、詩が通う自動車学校の場内コースであり、既に見慣れた光景として記憶されている。

 車内には、もう詩一人しか乗っていなかった。
 確か7人は乗っていたはずだと記憶しているが、皆早々に降りてしまったらしい。

 自分はどれほどの時間眠ってしまっていたのだろうかと考えながら座席を立った。

「体調が悪いなら先生にちゃんと言うんだよ。運転するに危ないからね」
「はい。ありがとうございます」

 心配してくれる送迎のオジサマにお礼を言って、そそくさとマイクロバスを降りた。

 送迎バスの停車場から校舎までは、まだ少し(2分程度だが)歩かなければならない。

 やたらと広い場内コースの脇を通りながら、詩は先ほどの夢を思い出していた。

 ――また、あの夢を。

 しばらくは見ていなかった夢だったのに。
 ああ、考えてみれば、やっぱりここへ通い始めてから頻繁に見るようになったのかも知れない。

 免許なんて、いらないのに。