嘘つきラビリンス

「恋羽の言うとおり美味しいお店だったね」


味なんて全然分からない。


「また来ようか、今度はディナーがいいかな?」


もう来ない。

なんでそう言えないんだろう?


「恋羽」

「――え?」


いきなり引き寄せる彼の手。

その力に逆らえなくて私の体はビルとビルの間の細い路地に引き込まれてしまった。


「ちょっ、晴臣っ!」


叫んで私を腕に抱く男を見上げると、彼はこの上ない優しそうな笑顔を湛えていた。


「やっと名前を呼んでくれたね」

「――っ」

「好きだよ、恋羽」

「嘘……」

「本当だよ、どうしたら信じてくれる?」


流される――。


「なら、キスしてよ」


もう休憩時間は終わってる。

だからランチに出てる社員に出くわすことはないだろう。

だけど営業に出てる人に見られるかもしれない。

客先の誰かに会うかもしれない。

彼の、婚約者と噂されてる常務の娘に見られるかもしれない。

私は試すようにそう言ったのに、


「いいよ……」


彼はあっさりと私にキスをした。