軽く蹴ったはずなのに、その空き缶は紺色のスーツを着た誰かにぶつかってしまった。


「あっ! ご、ごめんなさい!!」


その男が振り返る。

明るい栗色の髪はパーマなのかテンパなのかふわふわ、スラッとした身長で180はあると思う。

だけど、カラーシャツに明るめのネクタイ……。


「うん、ごめん。とっさに痛いって言っちゃったけど全然痛くないから」


そして彼は屈託のない笑顔でそう言った。


「いえ……、ホントにすみませんでした」


どこからどう見ても、彼はホストだった。


「謝らなくていいのに」

「そういうわけには……」


カツンと街頭に光る革靴。

その足先が私に向けられる。


「何か嫌なことでもあったの?」


見下ろしてくるふわふわした笑顔に、


彼でもいいかも――


って思ったの。