嘘つきラビリンス



「はい」


それから彼が差し出したのは真っ白なハンカチ。


「どう……?」

「目の端に涙あるよ。咽せて苦しかったんだね」


言われてみれば微かに滲む視界。

私はそれを素直に受け取って、目の端の涙をハンカチで拭った。


「もう、大丈夫」


自分にそう言い聞かせるよう口にしてハンカチを彼に返した。


「それじゃ水割りにしようか?」

「なんでもいい。今日は飲むの」


そしてすべてを忘れよう。

無理かもしれないけど、せめて今夜夢を見なくてすむくらいには酔ってしまいたかった。


「うん、いくらでも付き合うよ」


彼がこの言葉とともにみせた笑顔が、この日私が覚えてた最後の光景だった。