嘘つきラビリンス

「私がフリーになったお祝い」


そういうことにしよう。

私が彼からフリーになるお祝い。

もうこれで社内の噂なんかにいちいち怯えることはない。

不安になることもくだらない嫉妬心を抱くこともない。

私は、フリーだ。


「いいね、それ」


彼はそう言ってニコリと笑うとそばにいた黒服に小さな声で何かを頼んだ。


「それじゃ、恋羽さんがフリーに乾杯しよう」


ふわりと柔らかい笑顔で黒服からシャンパンを受け取る。

そして、


「お客様よりシャンパン入りましたー!」


ヘンテコなアナウンスと、

ポーンッ!

景気よくシャンパンの栓の抜ける音が店内に響いた。

ギュッと目を瞑って、開けるとトーマの手にはシャンパンの瓶があって、その口からはシュワシュワと泡が湧き出てくる。

そして、彼はそっとグラスにシャンパンを注いだ。