華の宴~哀しみの舞~

京・島原

此処は、その中でも階級が高い店【蜃気楼】

夜桜「空がこんなにも哀しく見えるなんてね……」

そう呟き、見上げた空からポツポツと雨が降ってきた。

店の前を通る人々の傘が重なりあい、まるで咲き乱れる華々のように見えた。

夜桜「そう言えば、あの人とあった日もこんな雨が降っていましたね……」

返してくれる相手もいない問いを口にした……

???「夜桜御姉様、いらっしゃいますか?」

不意に見習い花魁、柊の声がかかる。

夜桜「柊?ええ、お入りなさい。」

柊「失礼いたします」

柊は、おじきをしながら丁寧に部屋の戸を開け、入ってくる。

外を見ていた私も柊に目線をずらす

柊「夜桜御姉様、御縁談の方が御迎えに上がられたそうです」

夜桜「そう……」

柊の頬は涙の後がつき、目も少し無からず腫れている

泣いてくれたのか…私のために…

夜桜「優しい子…」

私は思わず柊を抱き締めた…

柊「よ、夜桜御姉様!?」

柊は、驚きながら、慌てた声を出す。

だが、私は離すことなく続けた

夜桜「もしも、私が居なくなって辛いことがあれば君菊さんに相談しなさい。見た目は怖いけれど誰よりも優しい人よ」

柊「はい。」

夜桜「後、今までありがとう…」

柊「……はい…」

また、柊の頬が濡れる……

それを待っていたように私の頬も濡れ出す……

なぜ、何故だろう……待ち望んでいたこと……

それが、今、この時に叶おうとしているのに……

何故?何故今になって離れたくなくなるの?

もう、あの人はこの世にはいない……

思い残すことは……全くないのに……