「に、兄さん、帰ってたの!?」

帰ってきた美幸を俺が出迎えると、美幸はやけに驚いた顔を浮かべた。



「あぁ、今日は家でやってたんだ。
それに、マイケルにも手伝ってもらったからすぐに済んだ。」

「そ、そうだったんだ…」

なんだか妙に落ちつきのない美幸の様子に、俺は少し焦りを感じた。
まさか、あいつ、気が付いたんじゃ…!?
いや、違う…気付いたのなら、俺が家にいたことをあんなに驚くはずがない。



「食事は楽しかったか?」

「う、うん、とっても美味しかった。
じゃ…私、ちょっとゲームするから…」

そう言って部屋に向かう美幸に、俺は小さな溜め息を吐いた。



「アッシュ…美幸、どうかしたのか?」

「美幸ちゃん?別になにもないよ。
ゲームの続きが気になってるだけじゃない?」

「……そうか。」

気のせいだったか。
それにしても、何年経っても美幸はゲーム、ゲームとそればかりで、まるで成長がない。
もう少し他のことに目を向けられないものか…



「ところで、河本さんの件…ボクは変更のことなんて聞いてなかったよ。」

リビングのソファに腰掛けるなり、アッシュが不服そうな声を出した。
その言葉に、俺とマイケルは顔を見合わせる。



「実はね…あれは嘘なんだ…」

「嘘……?
……なるほど、やっぱりそうだったのか。
でも、マイケルまで一緒に帰っちゃうなんて、芸が細かいね。」

「こう見えてもカズはけっこう寂しがり屋だからね。
一人で帰すのがしのびなかったんだ。」

「誰が寂しがり屋だ…
今日は久し振りに一人でゆっくりしようと思ってたのに…」

軽口を言い合いながら、俺達は笑った。



今日の俺は本当に大人気なかったと思う。
あんなことで、声を荒げてしまうなんて…
自分でもどうかしていたと思う。
けれど、どうにも気持ちがおさまらず、俺は温泉でマイケルにそのことを打ち明け、忘れてた仕事があるふりをして先に帰ると話した。
すると、マイケルが、そんなことを俺が言ったら、やっぱりさっきのことをひきずってることが大河内さんにバレると言い出し、不自然にならないように、マイケルが仕事のことを思い出したことにすると協力を申し出てくれた。
俺は当然一人で帰るつもりだったから、突然、マイケルも一緒に帰ると言い出した時には驚いたが、そこでごたごたするのもおかしいと思い、マイケルの言うことに従った。

家に戻ってからは、二人で酒を酌み交わしながら馬鹿話に花を咲かせ、今日のことはもう忘れることをマイケルに約束した。