「美幸…あの…野々村さんのことだけどな…」

「野々村さんがどうかした?」

タオルで髪の毛をごしごしと拭く手を停め、美幸が俺の顔を見あげた。



「どうって…
ほら、ネックレス渡してくれたんだろ?
何か言ってたか?
あ……美幸、コーラ飲むだろ?」

「え?う、うん。」

俺は、美幸の視線から逃れるようにしてその場を離れ、冷蔵庫から取り出したばかりの冷たいコーラとグラスを差し出した。

美幸の奴、家に帰って来るなり部屋にこもり、出て来たと思ったら今度は風呂に入って、そのままなかなか出て来なかった。
その間に来た野々村さんのメールはやけに素っ気無く…いつもならもう少し何か書いてくれるはずなのに、野々村さんからのメールだとは思えない程、それは愛想のないものだった。
そのことが俺の気持ちを不安にさせた。
もしかしたら、ネックレスが気に入らなかったのか?
それとも、美幸と会ってる時になにかいやなことでもあったのか?



「あ、ありがと…」

美幸は、なみなみと注いだコーラを喉を鳴らしてうまそうに飲み干した。
そんなにコーラばかり飲むから痩せないんだ…と、いいたい気持ちをぐっと堪え、俺は美幸が話を始めるのをじっと待つ。



「……あのね…兄さん…」

美幸の様子がどうもおかしい。
何かおどおどとしている。



「どうした?野々村さんとなにかあったのか?」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど…
今さらこんなこと言うのもなんだけど……きっと、野々村さんはあのネックレスつけないと思うよ。
あ、気に入らなかったとかじゃないよ。
野々村さん、ムーンストーンが大好きなんだって。
それは本当に喜んでた。
だけど、兄さん……女同士でおそろってやっぱり変だよ。
十代の時ならともかく、私もなんかいやだもん。
だから、野々村さんがいやがるのも当然だよ。」



(……いやがる…?)



「……野々村さんがそう言ったのか?」

「え?違う違う、そうじゃないよ!
野々村さんはそんなこと言わない。
ただ…話してて私がそんな風に思っただけ。」

「……そうか……
……美幸…あんまり夜更かしせずに早く寝るんだそ。」



俺はそれだけ言い残して、そのまま部屋を後にした。