「嬉しいよ。お前とこんな風に話せるなんて。」

俺が今使ってる客間に、布団を並べて敷いた。
なんだか少し照れくさい。



「ここが夫婦の寝室なのか?」

「違いますよ。ここは、俺の部屋っていうか…」

「仕事部屋か?」

「う~ん、まぁ、そうですね。」

「なんだ、はっきりしない答えだな。」

俺は曖昧に笑うしか無かった。



「俺たちはちょっと変わった夫婦なんですよ。」

「どういうことなんだ?」

俺は野々村さんとの成り行きを話した。
元々は高見沢避けのために、野々村さんに恋人の振りをしてもらったこと。
だけど、そのうちに自分の気持ちに気付いたこと。
たった一度の、しかも酔った上での過ちで子供が出来たこと。
そのせいで野々村さんは、俺の前から姿を消そうとしていた事等を。



「なんだって!?そんなことが?じゃあ、まともに付き合った期間はほとんどないってことなのか?」

「そうですね。
子供が出来てから、告白してそして結婚しましたから。」

「こいつはすごい話だな!」

高坂は陽気に笑った。



「だから、お互いにまだ苗字で呼びあってるんだな。」

「そういうことです。」

「そうか…面白い夫婦だな。
でも、そんなことはどうだって良い。
愛情があって、生活力があれば何の問題もない。
俺は愛情はあったが、生活力も親としての自覚もなかったからな。」

高坂はいまだに当時のことを悔やんでいるようだった。