「すごい。」

「何がすごいんだ。単に、食材を煮たり焼いたりしただけじゃないか。」

「本当に美味しそうです。」



夕飯は、俺と高坂でスーパーに買いに行った。
いつものように惣菜か弁当を買おうと思っていたら、高坂が食材を買い込み、自分で作ると言い出した。
長い間、自炊をしていたから、大概のものは出来るということだった。
それが嘘では無いことはすぐにわかった。
包丁さばきが、とてもうまい。
長年料理をやってる者の動きだった。



実際に、料理は美味かった。
少し味が濃いかと思っていたら、意外にも薄味だった。
野々村さんの口にも合うはずだ。



「本当においしいです。」

「そうか?お世辞でも嬉しいよ。」

「お世辞なんかじゃありません。
本当に美味しいです。」

「野々村さんは、お世辞なんか言わないよ。」

「またぁ、女房を苗字で呼ぶなって。」

「あ……」

高坂に笑われて、恥ずかしくて下を向いた。
長年の癖はなかなか直らないものだ。



「お前たち、どのくらい付き合ってたんだ?」

「え……」

返事に詰まった。
正確に言えば、しばらく恋人同士の振りをしてはいたが、あれを付き合っていたと言えるのかどうか。



「……どうした?」

「なんというか…難しいんですよ。
またそのうち答えます。」

「難しい…?」

高坂は頭をひねっていた。