「じゃあ、そろそろ…」

「夕飯を食べましょうよ。」

兄さんがこの気まずい観光を切り上げようとしたら、母さんがそんなことを言った。
母さんはこの気まずさがなんともないんだろうか。
早くホテルで休めば良いのに。



「……何が食べたい?」

「私はなんでも。」

「父さんは?」

「そうだな、出来れば和食が良いかな。」

「わかった。」



兄さんは、お店に電話をかけていた。
予約しないといけないお店なのかな。
確かにお腹は空いてはいるけど、こんな状況で食べられるかな。
相変わらず静かな車に揺られ、しばらくすると、店に着いた。







「なかなか良い雰囲気のお店ね。」

珍しく、母さんが店を褒めた。



「接待でたまに使う店なんだ。
味も申し分ない。」

「あんた…仕事はうまくいってるの?」

「まぁ、程々にはね。」

「そう…それなら良いけど。
美咲さんって人、そんなに収入はないみたいだけど、それでも大丈夫なのね。」

「あぁ、問題ない。
俺の収入だけで、十分やっていける。」

「子供を育てていくには、何かとお金がかかるのよ。
しかも、ふたりもいるんだから。
あんたも元気でいなくちゃだめよ。
もうあんたは自分ひとりの体じゃないんだからね。
あんたは、美咲さんと子供を養っていかないといけないんだから。」

珍しく母さんがまともなことを言った。
兄さんは静かに頷いた。