「おやおや、どうしたのかな?」

看護師らしき中年の女性がやってきた。



「ダメじゃないか、泣かせたりして。
あれ?どの人があんたの旦那なんだい?」

看護師は俺達を順番にみつめる。



「ち、違います!そうじゃないんです!」

「違う?まぁ良い。とにかく、そろそろ授乳の時間だよ。」



(じゅにゅう?)



その言葉から想像する漢字は『授乳』しかない。
でも、病気の野々村さんが授乳ってどういうことなんだ?



野々村さんは涙を拭い、看護師と共に歩き出した。
俺達もそれについて行く。



(え……)



行き着いた先は、新生児室だった。
ガラス窓の向こうには、小さな赤ちゃんがたくさん並んでいた。



「どういうことだ?」

「わからない。」

「美咲さんが子供を産んだんじゃないですか?」

「えっ!?」



アツシの言葉に、あの時のことが思い出された。
まさかあの時…たった1回で、そんな…
いや、違う。
あの時の子だとしたら、日にちが合わない。
じゃあ、誰の子だって言うんだ!?
野々村さんに、付き合っている人がいたというのか?



混乱している時、さっきの看護師が出てきた。



「あんただね!」

「え?な、何がですか?」

「野々村さんの旦那だよ。」

「え、ど、どういうことですか?」

「よく見たら女の子とそっくりだよ。」

そう言って、看護師は笑った。
俺はまだ意味が分からず、その場に立ち尽くしていた。