「美幸、今日…」

「美幸ちゃん、お昼はオムライスで良いかい?」

「うん。」



俺のことは無視したまま、美幸はアッシュに向かって答える。
……なるほど。
美幸は、昼ご飯を食べに出て来たということか。
ほとんどは自分の部屋にこもっているが、美幸は食事の時間には遅れたことがない。



「お待たせ。」

アッシュが香りの良いコーヒーを俺の前に差し出した。



「ありがとう…アッシュ。
ところで、マイケルはどうしたんだ?」

「彼なら朝から出掛けてるよ。
きっとデートだね。」

「……そうか。」



アッシュもマイケルも、昨夜は俺と同じくらい飲んだ筈なのに本当に元気だ。
考えてみれば、二人は俺よりずっと若い。
いつもはあまり気にしていないが、やはりこういう時に年齢の違いを感じさせられる。
若いつもりでも身体は正直だ。
そんなことを考えると、俺の気持ちは少し沈んだ。



「美幸、昨夜は…」

「……昨夜っていうより、今朝に近いよ。」

美幸はそう言いながら、眉をひそめて俺から顔を背けた。
自分でも酒臭いのを感じるくらいだから、それも当然だ。



「そうか、そんなに……
マイケル達が運んでくれたのか?」

美幸はその質問に素っ気無く頷く。



「あ……昨夜、野々村さんからメールが入ってた。
昨日の帰り、本当は車に酔って気分が悪かったんだって。
でも、そういうと私達が心配するって思って、言わなかったらしいよ。
それで、ちょっと休んでからスーパーに寄って帰ろうとしてたら、偶然、おじいさんに会ったんだって。」

「え……それじゃあ、大河内さんに会うために用があるって言ったんじゃなかったのか?」

「うん。
それと、おじいさんは今は忙しいけど、来週の半ばあたりから暇になるから皆で遊びに来てって言われたって。」

「そ…そうか……そうだったのか。」

美幸のその話を聞いた途端、なにか…靄のようなものがすっきりと消えたような…
そんな不思議な程の爽快感を俺は感じた。
なんだか妙に頬が緩む。