(全く、なんて店員だ。
そりゃあ、俺と野々村さんは同年代だが、だからといって夫婦と決めつけるなんて…)



人混みの中を進むうちに、俺は野々村さんの手を掴んでることに気が付いた。



「あ…すみません。」

「い、いえ……」

俺は手を離した。
なんだ、この気まずい雰囲気は…



「えっと…まだ他にも旅行代理店はありましたよね?」

「そ、そうですね。確かあったと思います。」

「じゃあ、行きましょうか…」

「……はい。」

俺達は無言のまま、並んで歩き始めた。
気まずさをなんとかしたくて…何か話そうと思うのだけど、話す言葉がみつからない。



「あの…行き先ですが…」
「野々村さんは…」

タイミングの悪いことに、二人の声が重なった。
きっと、野々村さんも俺と同じことを考えたんだろう。



「はい、なんでしょうか?」

「野々村さんからどうぞ。」

「いえ、青木さんから…」

譲り合いで、さらに場は気まずくなる。
俺は今、何を話そうとしていたのかさえ忘れてしまっていたが、無理やりに話題をひねり出した。



「あの…野々村さんは、どこか行きたいところはありますか?」

「い、いえ。私は旅行自体あまり行ったことがありませんし、良く知らないんです。
いまだ日本から出たこともありませんし。」

「そうなんですか。海外には日本では体験できないようなことがいろいろとありますから、楽しいと思いますよ。」

「でも、私は日本語しかしゃべれませんし…」

「それなら俺が……」

言いかけて、なんだか急に恥ずかしくなった。
これじゃあ、まるで一緒に海外に行こうと誘ってるみたいじゃないか。
今回は、国内しか行けないことはわかってるのに…