「……思った以上に混んでるな。」

兄さんの運転する車で、野々村さんとシュウさんの家を周って二人を拾い、みんなで映画館に向かった。
さすがに、話題のアニメだからか、映画館は満杯状態だった。



「指定席はないのか。」

「もう売り切れてたんだよ。」

「あ、あそこ、空いてますよ!」

野々村さんが、前の方を指さした。



「あ、あそこも…二つずつだから、別れて座ろう。
美幸たちは、あっちに行けよ。
俺と野々村さんは後ろで見るから…じゃあな!」

「え……」

兄さんと野々村さんは、さっさと移動を始めた。
どうして?二人ずつなら、私と野々村さん、シュウさんと兄さんで座れば良いんじゃないの?



「……行くぞ。」

「あ……」

突然、シュウさんに手を掴まれ、私はあたふたしながら着いて行った。



「とりあえず、座れて良かったな。」

「は、はい。」



話が続かない。
すぐ傍にシュウさんがいるから…なんだか恥ずかしいような気まずいような…



「あ、あの…ポップコーンか何か買って来ましょうか?」

二人っきりの気まずさを避けるために、私はそんなことを言ってみた。



「俺はいらないが、食べたいなら買って来ると良い。」

シュウさんは、そう言って私の前に財布を差し出す。
鋲がいっぱいついてて、ずっしりと重い財布だ。



「あ、そ、そんな…お金は…」

「いいから。
あ、そうだ。お茶を買って来てくれるか?」

「は、はい、わかりました。」