「……そうですよね。
根本的なところが違うんですよね。」

「根本的な…ところ…ですか?」

青木さんは、ゆっくりと頷かれた。



「つまり、小説の世界の住人は、自分たちに『設定』というものがあることを知っている。
だけど、俺達は、運命のまま動いているだけなのか、自分自身で動けるものなのか、その真実を知らない。」

「あ……」

確かにその通りだ。
そのことを知ってるのかどうかでは、意識が全然違う。
どんなに足搔こうが、運命がどうしても変えられないとわかっていれば、それを受け入れるしかないんだ。



「それなら、彼らが設定を受け入れるというのがわかるような気がします。
それに……彼らは作者によって生み出されたこと自体を、すごく喜んでるんじゃないでしょうか?
俺達人間は、そんなこと、あまり感謝はしない。
特に、うまくいかなければいかないほど、生まれて来たことをありがたいことだなんて思わない…
でも、彼らはどんな過酷な設定を背負っていても、作者によって生み出されたこと…物語の中で生きられることに感謝してるんじゃないでしょうか?
……そんな風に考えれば、彼らは僕達よりもずっと純粋で素晴らしい人たちですよね。」

「そ、そうですね……」

そんなことに気付かれる青木さんは、やっぱり素敵な人だ。
頭が良いだけじゃない。
心の深さ…みたいなものがある人だと思う。

私は、あらためて青木さんに惹かれてしまった。