「本当なら、俺の方が先に身を固めなきゃいけないのかもしれませんが、あのことを思い出して以来、やっぱり美幸のことばかり気になってしまって、自分のことに身が入らないんです。」

「そうなんですか……」

「野々村さん…あの時、俺はシュウが美幸から離れて行こうとしてることをわかっていながら引き止めなかった…
最終的には、俺はシュウを見捨て、美幸を取ったんです。」

「そうじゃないと思います。
青木さんはあの時…」

青木さんは私の言葉を制するかのように、大きく首を振られた。



「俺は…シュウの気持ちがわかるとか何とか言いながら、結局は、美幸が可愛かったんだと思います。
美幸のことを一番に考えてしまった…
そのことが俺の心にはひっかかっているんです。
だから、今度はシュウのことを一番に考えたい…
でも、今のシュウは美幸を愛してはいない。
そこが難しいところなんです。
どうしてやるのが、シュウにとって…ふたりにとって良いことなのか…
毎日、そんなことばかり考えてしまうんです。」

「青木さん……」

私が思ってた以上に、青木さんはお二人のことを真剣に考えられていたようだ。
……思い出してみればあの時もそうだった。
ひかりさんやシュウさんが小説の世界に行ってらっしゃった時…
青木さんは、いつもひかりさんのことをとても大切に考えられていて…



そう…青木さんはいつだってひかりさんのことを考えていらっしゃる。
とても大切に想われてらっしゃるんだ。



だから、きっと本当だと思う。
今は、ひかりさんのことで頭がいっぱいでご自分のことには身が入らないってことは。
でも、だったら、この間はなぜあんなことを訊かれたんだろう?



『今…好きな方はいらっしゃいますか?』



なぜ……?