「大丈夫ですか、野々村さん…」

「は…はひ……」

しばらく咳き込んだ後、野々村さんは涙を拭いながらようやく落ち着いた。



「すみません。
俺がおかしなことをお訊ねしたばっかりに…」

「い、いえ……」



気まずい沈黙が流れた。
さっきの質問はもうやめて、何か別の話題でもふるべきか…
そう考えていた時、野々村さんが口を開いた。



「……変わってません。」

「え?」

「私の気持ちは…ずっと変わってません。」



それは…どういうことだろう?
あれからもずっと俺を想っててくれているということなのか?
それとも……



「あ、私、何も求めてませんから…
ど、どうか不快に思わないで下さい。」



何と言えば良いのかわからなかった。
自分から聞いておいて酷い話だが、俺は野々村さんの率直な言葉に戸惑ってしまい、何も言えなくなっていた。
おかしな沈黙がその場を覆い尽くす。
何か言わないと…と思えば思うほど、俺は余計に何も言えなくなって…



「えっと…あ、ありがとうございます。」

何とも間の抜けたことを言ってしまったものだと、自己嫌悪に陥った。



「こ、こちらこそ、ありがとうございます…」

真面目な顔でそう言う野々村さんに、俺はおかしくなって吹き出してしまった。



「青木さん…?」

「野々村さん、お、おかしくないですか?
俺達の会話…」

「えっ…そ、そういえばそうですね。」

そう言って、野々村さんも一緒になって笑い始めた。