「おはようございます!」

次の日も、私はいつもと変わらずケーキと花束を持ってシュウさんの病室を訪ねた。



「おはよう、いつもすまないな。」

「いいえ、私が勝手にやってることですから…」

出来るだけ明るく…出来るだけ元気良く、私は気力を総動員してシュウさんの言葉に答えた。



「あ、明日、退院なんだって。」

「え?そうなんですか。」

「特にどこも問題はなかったからな…」

そう言ったシュウさんの声は、どこか無理してるように聞こえた。
そりゃあそうだろう…私に本当のことなんて言えるはずもないんだから…



「そ、それは良かったです。
あ、近いうちに退院祝いしましょうよ。」

「……そうだな。」

静かな声…
退院祝いという言葉に、シュウさんはどんな気持ちを感じただろう?
それは決して諸手を上げて喜べる状態ではない。
余命まで宣告されて、しかも退院ってことは、もう病院にいても打つ手がないってことだ。
手術してなんとかなるのなら、手術をするはずだけど、それもしないっていうのは、最悪の事態…だからこその『一年』なのかもしれない。



「あ、シュウさん…ケーキ食べませんか?」

「あぁ、もらおうか。
ケーキも今日で最後だからな。
亮、コーヒー淹れてくれ。」



「今日で最後」



シュウさんがなにげなく口にしたその言葉が、私の心を不安にさせた。



「な、なんだったら、退院してからも毎日ケーキ持っていきますよ。」

「いいよ。もう十分。」

そう言いながら、シュウさんはケーキを物色する。



「これ、見たことないな。」

「秋の新作だそうですよ。」

「そっか、それじゃあ、俺はこれにする。」

「じゃあ、私はこっちのいちごのにします。」

ケーキなんて本当はどうでも良かった。
だけど、シュウさんに変な気遣いをされないように、私は無理矢理うきうきとした表情を作って、ケーキを選んだ。