「ひかりちゃん…今、良い?」

「……うん、大丈夫だよ。」



純平君からの電話だった。
これまでにも何度かあったけど、話す気力が出なくて、ずっと知らんふりしてた。



「あ…ごめんね。今まで出なくて…
いつもタイミングが悪くて…」

「ううん、大丈夫だよ。
僕の方こそごめんね。
あ…今回のことだけど…本当にごめん。
ひかりちゃんには怖い想いをさせちゃったね。」

「純平君が謝ることじゃないよ。
でも…この前の話、本当なの?
あの人、ずっと純平君のことを見張ってたの?」

「うん…多分ね…
あの日…ほら、最初にカラオケ行った時、通りの向こうにいたの知らない?」

「うん、覚えてる。
でも、顔は覚えてなかった。」

「あの時、偶然、ゆみちゃんに見られちゃったんだ。
あ、ゆみちゃんっていうのは僕の常連さんでね。
中でも一番古い常連さんなんだ。
でも、今まで話してておかしいなんて思ったことはなかったし、まさかあんなことをする人だとは思わなかった。」

だろうね…
私が見た時も特に何とも思わなかった。
間違っても印象に残るようなタイプじゃなくて、どこにでもいるごく普通の人に見えたもの。



「だから、見られたことはちょっとまずかったって思ったけど、でもそこまで深く考えてなかったんだ。
だけど、それからなんかおかしな雰囲気がして…
ひかりちゃんには言わなかったけど、ひかりちゃんと会ってる時もずっと誰かに見られてるみたいな変な感じがしてたんだ。
でも、確証がなかった…
だけど、遠出した時にゆみちゃんらしき人を見かけたから、もしかして…とは思ってたんだ。
とはいっても、まさか、あんな思い切った真似をするなんて思ってもみなかったんだけど…」

純平君はいつになく暗い声でそう話した。



「そう…私、何も気付いてなかった…」

「僕も気のせいかと思ってたもん。」

「きっと、あの人は純平君のこと、本気で好きだったんだよ。」

「そうなのかな…普段はそんなこと、感じなかったんだけど…」

「そうだよ。そうじゃなきゃ、あんなことしないもの。」

「……そうだね。気付かなかった僕が悪いんだ。」