「ゆみちゃん…」

純平は知ってる女なのか、声を掛けて立ち上がった。



「あんた…どういうつもりなの?」

ゆみちゃんと呼ばれた女は、美幸に向かって低い声を出した。



「ど、どういうって…あの?」

「純平とは私の方がずっと長いの!」

女の声はヒステリックな叫びに変わっていた。



「え……」

「ゆみちゃん、向こうへ行こう…」

純平が女の腕を取ろうとしたが、女はそれを振り払い、純平の胸を突いた。



「私…知ってるのよ。
どんな手を使ったか知らないけど…純平をたぶらかすのはやめて!」

「え…私…そんな…」

「許さない…!」

女は、懐からナイフを取り出し、美幸に近付く。



「危ない!」

俺は立ち上がったが、俺と美幸の間には野々村さんがいる。
そのせいで一歩出遅れた…



……その時だった。



「シュウ!!」



女と美幸の間にシュウがいた。
美幸をかばうように女に背を向けて、シュウは、苦し気に顔を歪めている。



「シュウ…!」

「あ…あ…あぁ……」

ゆみという女は手を赤く染め、その場に座り込んで狂ったように泣き始めた。
あちこちで、騒ぎに気付いたお客たちの悲鳴が上がる。



「慎二…く、車を用意してくれ。」

「は、はいっ!」

「シュウ!大丈夫なのか!」

「たいした…ことは、ない……」

それがシュウの強がりであることは、奴の表情や脂汗から容易にわかった。
俺はシュウに肩を貸し、店の外に連れ出した。



「シュウさん……!!」

美幸は泣きながら、シュウの様子を不安気に見ていた。
野々村さんはそんな美幸に付き添い、手を握ってくれていた。



病院に着き、シュウは手術室に運ばれて行った。
大変なことになった…そう思うのと同時に、俺は不思議な力が動き出したことを感じていた。