「なんか…楽しい人だったね。」

「そうか…?」

「うん、優しいし…
もっといやな人かなって思ってたけど、全然そんなことなかったね。」

「そうか…」

美幸も母さんの愚痴を聞かされていたから、高坂には悪い印象を持っていたようだ。
確かに、実際会う高坂はいやな人間ではない。
寧ろ、明るくて無邪気で、誰からも好感をもたれる人間だ。
元々のイメージが良くなかったから、なおさら良い印象を受けたのかもしれない。



「今日のこと、母さんに話すの?」

「さぁ、どうかな。」

「私からは言わない方が良いかな?」

「それはおまえに任せる。」

母さんとはたまに電話で短い話をするくらいのものだ。
だから、わざわざ話さないと話題にも出るはずがない。
まさか、今更、高坂と会うなとは言わないだろうが、話しても、お互い、良い気分にはならないだろう。
それなら、俺からはわざわざ話さない方が良いのかもしれない。



「それにしても若いよね。
兄さんの兄さんくらいにしか見えないよ。」

「そうかもしれないな。」

「父さんとそんなに年も変わらないのに、父さん…更け過ぎ!」

「いや、父さんは普通なんだ。
あの人が、異常に若く見えるんだ。」

「まぁ、そうだけど…」

俺達は、他愛ない会話を交わしながら、帰りの道を歩いていた。



まだ心の整理が着いたわけではなかったが、なんとなく落ち着いてはいた。
高坂のことを父親だと感じる実感のようなものはまだない。
だが、友達としてならきっとうまくやれる…そんな気がした。



また近いうちに会おうという言葉も、いやではなかった。
俺ももっと話してみたい。
高坂という人物のことを、もっと深く知りたいという気持ちは確かにあった。