「和彦…本当にすまなかった。
俺はお前に何もしてやれなかった。」

「いえ…そんなこと…」

「俺は未熟だった…
結婚して子供が出来て…それなのに、親としての自覚がなくて…」

「仕方ないことだと思いますよ。
あなたはその時、まだ子供だったんですから…」

「……その通りだ。
俺は何もわからないガキだった。
その点、真樹子はしっかりしてた。
あいつの方が年は下だったのに、俺なんかとは違ってた。
愛想を尽かされるのも当然だな…」

高坂は俯き、本当に済まなさそうな顔をして…なんだか、気の毒に思える程だった。



母さんは良く話していた。
あんたの父親は、バイトも続かずすぐにやめては家でごろごろしていたと…
しかも、友達が誘いに来るとすぐに遊びに出掛けてしまう…
甲斐性がなくて無責任な男だとよく愚痴っていた。



きっと、それは本当のことだろう。
俺だって、19やそこらで子供が出来ていたら、真面目に子育て出来たかどうかわからない。
男なんてきっとそんなもんだ。
女は自分の身体の中で育て、お腹を痛めて産むのだから、親になる自覚も強いのだろう。



「あの…別れてから会わなかったのは、もしかして母に言われたからなんですか?」

「そうだ。
今後、一切、和彦にも自分にも近寄るなと言われた。
あいつが気のきついことは俺も十分知ってるし、だから、言われた通りにした。
でも、実は隠れて見に行ったことは何度もあるんだ。
もちろん、おまえも真樹子も気付いてはいなかったが、幼稚園の運動会も遠くから見たことがあるんだ。
そう…いつもすごく遠くからだった。
こんな風に手が伸ばせるくらいに近付けることなんて、まったくなかった。」

そう言いながら、高坂は俺の手を握りしめた。



「それで、今は真樹子たちとは離れて暮らしてるのか?
それとも、真樹子達もこっちに?」

「いえ、母たちは向こうにいます。
今は、友人とそして美幸とでこっちに住んでます。」

「おまえ、まだ独身なんだよな?
結婚はしないのか?」

「ええ…なかなか良い人と巡り合えないんで…」

「カズさんだって、独身じゃないですか。」

「えっ!?そうなんですか?」