赤い流れ星3

「確かに、カズさんは動物的なカンしてるからなぁ。」

「なんだよ、シュウ…
俺はかばか!」

くだらない冗談に、美幸がくすっと笑う。



「あ、そういえば、なんで『カズさん』なんですか?」

「え…?」

高坂はちょっと困ったような顔をして俺をみつめた。
確かに、おかしい。
高坂の名前は隆二(りゅうじ)なのに、なんで…



「もしかして……」

そう言って、シュウまでもが俺の顔をみつめる。
高坂は照れくさそうに笑って、ゆっくりと口を開いた。



「おまえも動物的なカンしてるよな。
そう…その通りだ。
こんなこと言っても信じてもらえるかどうかわからないけど…俺は別れてからも、和彦のことを忘れたことはなかった。
だから、カズという名前をもらった。
周りからカズって呼ばれる度に和彦のことが思い出された。
寂しさもそれで紛れた。
一緒にはいられなくても、その名前のおかげでどこかで繋がっていられるような気がしたんだ。」



それはちょっとショックな言葉だった。
俺は、父親への思慕はまるでなかった。
だから、俺のことをそんなに想ってくれてたなんてことも、考えてもみなかった。
俺が忘れているのと同じく、父親も俺のことは忘れてるって思ってたんだ。



「……これ。」

高坂は、財布の中から小さな写真を取り出した。
それはまだ若い頃の母に抱かれる、赤ん坊の俺だった。



「これが母さんと兄さん??」

「そうだよ…面影があるだろう?」

「こんな写真から大人になった兄さんがわかったなんて…
しかも、青木和彦なんてどこにでもある名前なのに…」

「……この頃のまんまだよ。
少しも変わっちゃいない…」

高坂は目を細め、静かに笑った。



「和彦…本当にすまなかったな。
俺のこと、恨んでただろう?」

「いえ……」

恨むもなにも、俺には生まれた頃から父親は痕跡すらもなかったのだから。
ただ、母親の愚痴はしょっちゅう聞いていたから、悪い父親だと言う印象はあった。


「本当に俺は馬鹿だった。
真樹子に捨てられて初めて、俺は大切なものを失ったことに気付いた。
でも、もう遅かった。
あいつは一度決めたことを覆すような女じゃない。
俺が何を言おうと、もうやり直すことは出来なかったんだ…」

絞り出すようなその言葉に、俺は高坂の苦悩を見たような気がした。