「じゃあ、二人にはそう言う不思議なことがありつつも、特に恋愛感情のようなものはないということなんですね?」

「え…ええ…
実は…以前、シュウさんがひかりさんにプライベートの名刺を渡されたことがあって…」

「プライベートの名刺を美幸に?」

「ええ、プライベートの名刺を渡されるなんて、めったにないことですよね。
それで、やっぱりシュウさんは心のどこかでひかりさんのことを覚えてらっしゃるんじゃないかって思ったんですけど、それは単に間違えられただけだそうです。」

「……そうだったんですか。」

そうだろうな、間違いでもない限り、あんなイケメンでカリスマホストのシュウがひかりになんか関心を持つはずがない。



「でも、間違いにしろなんにしろ、そうやってほんの少しずつでも二人の距離が縮まっているのは、やはり運命なんじゃないかとも思うんです。」

「あ……」

なるほど、そういう考え方もあったかと、俺は目から鱗が落ちたような気分だった。
しかも、野々村さんは本当に真剣に美幸とシュウのことを考えてくれている。



「ありがとうございます、野々村さん…」

「え…いえ、私は何も…」

恥ずかしそうにそっと俯く野々村さん…
やはり、この人は信じられる人だ…なぜだかあらためてそう思った。



「ところで、野々村さん…
今まで大河内さんと会ってたのは、いつも美幸のことでだったんですか?」

不意に俺はそんなことを口走っていた。



「え?そうですが…」

その戸惑ったような表情を見て、俺は直感した。
やはり、大河内さんと野々村さんが愛し合ってるというのは、完全な勘違いだったと…



「す、すみません。美幸のことではいつもご迷惑ばかりおかけして…」

「いえ、そんな…」

なぜだろう?
勘違いだと思えた途端、とても心が軽くなった。
今まで鉛色だった空が、明るい青に変わったかのような、爽快な気分を俺は感じていた。