「こんな遅くに申し訳ありません。」

「いえ…な、なにかあったんですか?」

非常識なのは承知の上だ。
だが、俺はどうしても明日まで我慢することが出来なかった。



「実は、どうしてもお話したいことがありまして…」

深夜だというのに、野々村さんは俺達を快く家にあげてくれた。



「本当にすみません。
それと、これからお話することは本当に突拍子もないことで…
もしかしたら、俺の頭がおかしくなってるのかもしれません。
ですが、真面目な話なんです。
どうか、聞いて下さい。」

「は、はい。」

緊張で口の中がカラカラだ。
でも、ここまで来たんだ。
話さなければならない。
俺は意を決し、口を開いた。



「野々村さん…美幸は…美幸はシュウと小説の世界に行った…」

「えっ…」

野々村さんの驚きは尋常なものではなかった。
顔は真っ青になっていたし、指先も震えていた。
だけど、その驚きの意味はわからなかった。
俺がおかしなことを言うから、驚いているのか?



「青木さん、どうしてそのことを…」

「えっ?」

思いがけない野々村さんの言葉に、俺の背中には冷たい汗が流れた。



「そ、それでは…野々村さんはそのことをご存じなんですか?」

野々村さんは怯えた目をして、小さく頷いた。



「そ、それじゃあ、本当に美幸とシュウは小説の世界にいて…」

「そうです。
そして、私が美幸さんの物語の続きを書きました。」

「うっ…」

俺は胸がいっぱいになって、こみあげる涙を懸命に堪えた。



間違いじゃなかった…
本当だった…
俺が思い出したことは、本当のことだったんだ。
今まで抱えていた大きな不安が、急に消えて行くのを感じた。



「ありがとう、野々村さん…」

俺は思わず野々村さんの両手を握りしめていた。



「でも、どうして、急に…」

「あぁ、実は、俺…
シュウのことをネイサンに預けることにしてたんです。
それで、ネイサンが迎えに来てくれて…
でも、その時にはすでに二人は小説の世界に旅立った後だった。
俺は、ネイサンにすべてをぶちまけました。
一人で抱えてられなかったんです。
その後、すぐにネイサンはイギリスに帰り…俺はなぜだかそのことをすべて忘れてた…」

「そうだったんですか…
あ、青木さん…KEN-Gさんに連絡して良いですか?
出来ればKEN-Gさんにも来ていただいて…」

「野々村さん…大河内さんには何も関係ないじゃないですか。
どうして、大河内さんなんか…」

がっかりした…
やはり野々村さんは俺のことを頭がおかしいと思っているのか?
だから、大河内さんを…
だが、野々村さんは思いがけないことを口にした。



「青木さん…KEN-Gさんは賢者さんなんです。」