「どうかしたの!?」

すぐに部屋の外からマイケルの声がした。



「なんでもない、ちょっとふざけてただけだ。」

ネイサンが笑いながらそう答え、マイケルが立ち去る足音がした。



「……カズ…大丈夫か?」

「あぁ……」

「もしかして…君、今まであの話を忘れてたのか?」

「……その通りだ。」

俺は額の汗を拭った。



「信じられないことだが、俺の頭の中には今、二種類の人生が…いや、それは数年のものだが、とにかく二種類の記憶があるんだ。
今、君の話を聞いていて、シュウと美幸が小説の世界に行った数年間を思い出した。
そうなんだ…俺はあの時、途方に暮れて、信じてもらえないだろうとは思いつつ、君にすべてを語った。
なのに、それから俺はそのことを全く忘れ、そんなことなどまったくなかった…つまり、シュウが現れることのなかった数年をすごしていたと思っていた。
なぁ、ネイサン…どうなってるんだ?
俺の頭の中で一体、なにが起きているんだ?」

俺の心は不安と恐怖でいっぱいだった。



「……そうだね…考えられるとしたら、パラレルワールドのようなものだろうか?」

「パラレルワールド?
並行世界のことか?」

「そうだよ。
本来なら、その二つを経験することなど出来ない。
だけど、君はそれを体験した。
どうしてそんなことが…
……あ、そういえば、美幸ちゃんはどうやってこちらに戻って来たんだい?」

「それは…さっき来てた野々村さんに協力してもらった。
彼女にはある種の特殊能力があって、美幸の代わりに美幸の小説を書いてもらったんだ。
美幸が物語を動かして、それを現実にしたんだから、同じことが出来るんじゃないかって…
そう…それで、最終的に、シュウと美幸はお互いの記憶をすべて失う代わりにこっちの世界に戻るって結末にしたんだ!
記憶をエネルギーに変換して、あの時空の門を動かすってことに…
だが、それがどうなったかを見極めないまま、俺は席を立って…」

ネイサンはゆっくりと頷いた。



「なるほど、そこでまた奇蹟が起こったってことだね。
美幸ちゃんはシュウの記憶の力でこっちの世界に戻り、そして、その時に君の経験した数年間もすべてなかったことにされた…」

ネイサンの言葉に俺は背筋が冷たくなった。
そんなことが…そんなことが本当にありうるのか?
とても信じられない…
俺の頭がおかしくなったんじゃないのか?