「あ~あ、俺はどう頑張ってもこないなセレブにはなられへんってことやな。」

「また……町屋に住むのもそれが好きだからだろ?
おまえの給料なら、小マシなマンションに住むことだって十分出来るはずだ。」

「シュウさん、俺、実はけっこうシブチンなんです。
こういう職業は、一生やってられるはずもないし、今のうちにがっちり貯めときたいんです。」

「しっかりしてるな、おまえは……」



慎二は、明るく気さくに見えて、どこか本心を隠しているように感じることがある。
今の言葉も、なにかそういう気がした。
しかし、今それを問い詰めたところで、慎二は本当のことなんてきっと話さないだろうし、誰にだって言いたくない事のひとつやふたつはあるもんだ。
そんなことをわざわざ突き詰める必要なんてない。
本人が相談でもして来ない限り、何も言うことはない。



「それにしても、大河内さんのお屋敷はむちゃむちゃでしたね。」

「またその話か。
さっきからそればっかりじゃないか。」

「だって、あのお屋敷は軽いカルチャーショックでしたもん。
ほんま、どんだけお金持ちなんやって感じで……あぁ、なんや今晩うなされそう…!」

慎二はそう言うと、大袈裟に頭を抱えた。



「それはそうと、慎二……
今日、じいさんの所に行ったことは店の者には言うんじゃないぞ。」

「シュウさん、わかってますて。
俺もあほなやないんやから、そない何度も言わんかて大丈夫ですて。」

「それなら良いが……
あ、それから、じいさんのことは『KEN-G』って呼べよ。」

「あ、せやった!」

「ふだんから言い慣れてないから、その場になって言えないんだ。
おまえ、今日はずっと『大河内さん』って呼んでたぞ。」

「すんません!今度から失敗しーひんように気ぃ付けます!」

慎二は急に立ち上がって姿勢を正し、俺に深く頭を下げた。