「……なんだよ、その顔。」

「だ、だって……なんだか意外で……
シュウさんが人知れず努力だなんて……
……でも……考えてみると兄さんも確かにそういう所はあるんだ。
子供の時にね、友達とやったゲームで負けたとかで……あれ、何のゲームだったかなぁ…
私が相手をさせられたんだけど、私はまだ小さかったからルールもよくわからなくて、おかしなことばっかりしてはその度に兄さんに叱られて……」

ひかりは過ぎ去った過去を思い浮かべるように、遠い目をしてそう話した。



「……忘れてたよ。
そうだよね。
昔から兄さんはとっても努力家だった。
だから……」

「……だから…?」

「だから、私みたいな中途半端な人間を見たら苛々するんだと思う。
……シュウさんもそうなんでしょ?
私のことなんて知らないと思うけど…でも、なんとなくそのことに気付いてるから、それで……」

まただ……
ひかりが俺をみつめる怯えたようなあの目……



「それで、何なんだ!?
俺が君に苛々してるって言いたいのか?」

「ほら、今だって……」

「あ……」



他愛ない…なにがどうってことじゃないのに、なんだか不思議とおかしくなって……

気が付いたら、俺とひかりは顔を見合せて笑ってた。




なんだろう……
妙に懐かしくて……
たとえようのない程、心が和んで……



ひかりの笑顔が、酷く愛しく思えた。
手を伸ばし抱き締めたくなる衝動を押さえきれなくなる程に……



(なぜ、なぜなんだ!?)



その疑問が、俺の顔から笑みが消した。



「……シュウさん、どうかしたの?」

「どうもしない。」



何を苛立ってるんだ、俺は……



でも、どう考えてもおかしいじゃないか。
俺の目の前にいるのは、冴えないアニメオタクの女だぞ。



カリスマホストと呼ばれた俺が、仮にもそんな女を愛しいだなんて……ありえない!!



「みんな、どこに行ったんだ!?
じいさん!慎二!
どこにいる!」



どうかしている。
理解出来ない自分の気持ちに苛立ちながら、今まで気にもしていなかった爺さん達を呼びながら、俺は建物の方へ歩き始めていた。