「うわぁ、な、なんや、これ!
めちゃめちゃごっついシャンデリアやんか!
キラキラにも程がある!」

「わ、わ……
ここは体育館か!
どんだけ広いねん!」

「どわーーー!
この絨毯、ふかふかすぎて足もつれるわ!」




「慎二……」

玄関からずっと興奮してしゃべりまくる慎二の脇腹を、俺は軽く突付いた。



確かに、あいつが驚くのも無理はない。
昨日の夜、大河内さんから電話があって、良い肉が手に入ったから食べに来るようにと誘われた。
大河内の爺さんは、よほど慎二が気に入ってるのか、慎二も一緒に連れて来るようにとのこと。
今日は休みだし、特別な用があるというわけでもなかったし、大河内の爺さんはなんといっても俺にとっては大切な人だ。
媚びるわけではないが、爺さんの誘いを断る理由はない。
慎二もそのくらいのことは心得ているようで、話をしたら二つ返事で了承した。

俺は、途中で慎二を拾い、久し振りに車を運転して大河内邸に向かった。
場所は知っていたが、中に入るのは俺も初めてのことだ。
外観からそれなりの想像はついてはいたが、屋敷の中は俺の想像を遥かに超えたものだった。
それを慎二は素直に表現してるだけといえばその通りなのだが……




「こちらです。」




ふくよかな中年のお手伝いさんが、案内してくれた先は中庭だった。




「おぉ、やっと来たか!」



中庭には、高いコック帽をかぶった料理人と、その他に数名の料理人、そしてお手伝いさんが数名と……



「いやぁ、ひかりちゃんに美咲さん!」



慎二の声に、小さく頭を下げ、ぎこちない笑みを浮かべる二人……



あの二人も来るなんて、聞いてなかった。
聞いていたら、俺はこんなに素直に来なかったかもしれない。



名刺のこと…指輪のこと…誤解してしまった兄のこと…
たいしたことじゃないかもしれない。
だけど、小さなことが重なって、ひかりにはちょっとした苦手意識が芽生え始めて……いや、違う。
あいつのことは、最初からどうも苦手なんだ。



その理由がわからないのが、さらに俺を苛立たせる。




「こ、こんにちは。」

上目遣いで俺を見て…いつもこんな風におどおどしている。
俺が一体何をしたっていうんだ!?



「おおこ…じゃない。
爺さん、今日はお招きどうもありがとう。」

俺は、ひかりを一瞥しただけで、爺さんに話しかけた。