「なかなか良い雰囲気の店だったね!」

「しかも、料理も絶品だ!
あそこだったら、自信を持って接待に使えそうだな。」

「え…!?接待?
女の子を連れて行くのに最高だって思ったんじゃないの?」

「……アッシュ…!」



今日は思ったよりも早くに仕事が片付いた。
ひかりも野々村さんと会ってることだし、どこかで食事でもして帰ろうということになり、アッシュが最近出来たイタリアンの店が気になるというので、俺達はその店に繰り出した。



その店は、職場からも近く、特別気取った感じもしないが品の良い小洒落た店で、しかも、味もとても良かった。
個室もあり、予約も受けてくれるらしく、マスターもとても感じの良い人で、俺達は満足して店を後にした。



(今度、美幸や野々村さんも連れて行ってやろう……)



心の中でふとそんなことを考えながら、俺ははっとした。



(馬鹿だな…野々村さんは、大河内さんのものなのに……
……だけど、美幸はいつも野々村さんに世話になってるんだ。
食事くらい…それも、美幸が一緒ならそんなこと気にすることはない。
……俺はなにも野々村さんに気があるわけじゃないんだから……)



「……あれ…?」

「どうした?」



急に立ち止まったアッシュの目の先には、美幸のよく行くファミレスがあった。
店内は明るい灯りに照らされて、誰がいるのか、道路を隔てたこの場所からもよく見える。



(……!!)



アッシュが見ていたのは、奥の窓際の席にいた二人……
それは、向かい側に座る野々村さんと、固く手を握り合う大河内さんで……



「あの二人……相変わらず、うまくいってるみたいだね!」

「そうだね!
あんなにみつめあっちゃって…お熱いねぇ……
ねぇ、カズ……」

「失礼じゃないか。
あんまり見るなよ。
そんなことより、アッシュ……もう少し飲んで帰らないか?
やっぱり飲み足りない。」

なぜだか……俺は急に苛々とした気持ちを感じ、反射的にそんなことを口走っていた。
目を背けても、今見た二人の光景が脳裏から離れない。



(人目も気にせず、よくやるよ…
老いらくの恋ってやつほど、激しいものか……)

心の中で悪態を吐く。



「え……それなら、この近くで飲んで行こうか。
う~ん、どこが良いかなぁ……」

「女の子のいっぱいいる店にしよう。」

「そう?……じゃあ、こっちだよ。」