「今日は、大河内さんの予約が入った。
……席には、ジョーと……慎二に入ってもらう。」

「えっ!お、俺ですか!?」

突然の指名に、慎二は目を丸くして聞き返した。



「あぁ、そうだ。」

「あ、あの…シュウさん……僕は……」

当然といえば当然の事だが……純平が不安そうな顔つきで俺をみつめる。



「純平……おまえには昨日から裕輔の指導を頼んだはずだ。
しっかり頼むぞ。」

「……わかりました。」



口ではそう言いながらも、純平が本心から納得していないのは、その顔を見ればすぐにわかる。
しかし、客を好き嫌いで選べないことくらい、純平にもわかっているだろうし、なによりも、ひかりにはこれ以上深入りしないのが純平のためだ。



「シュウさん、ほんまに俺が大河内さんのテーブルに?」

「あぁ…
よろしく頼んだぞ。
大河内さんだからといって緊張することはない。
いつも通りで良いからな。」

「は、はい!
頑張ります!」

慎二はこっちに来てから雇った奴で、ホスト歴もまだそれほど長くはない。
そんな奴が、自分の代わりに入るとなれば、純平が面白くないのも理解出来る。
だが、慎二は新しいとはいえ売上げは純平よりも上だ。
ちょうど、昨日新人が入って来たから、そいつの指導を純平に任せるということで、俺は二人の関係がまずくならないように気を配ったつもりだった。







「シュウ……」

ミーティング後、俺はジョーに声をかけられた。



「どうした?」

「純平のことなんだが…なにかあったのか?」

「あぁ……特にたいしたことじゃないんだが、大河内さんがちょっとな……」

俺は、ジョーに事情を話した。



「そういうことだったか……でも、ちょっと残念だな……」

「残念って……どういうことだ?」

「シュウ…気付いてないはずないだろ?
あいつ…ひかりちゃんのこと気に入っててさ……
なんだか、最近明るくなっただろ?
積極性も出て来たし……良い傾向だと思ってたんだ。」

「……ジョー……
それは別にひかりのおかげじゃないだろ?
あいつが仕事に目覚めただけじゃないか?」

「……え?」

「純平には期待してる。
だから、俺も裕輔のことを任せたんだ。」



そう言い残して、俺は足早に歩き去った。
これ以上、ジョーと話していると、言いたくない事まで話すことになってしまいそうだったから。