「はい、出来ました。
これでいかがでしょう?」

「わぁ!……ありがとう!
野々村さんって、お化粧上手だね!」

美幸さんは、手鏡をのぞきこみ、嬉しそうな声でそう言って下さった。



「とてもじゃないけど、タカミーさんみたいには出来ませんが……ごめんなさいね。
美幸さん、このチークの色、とても可愛いですね。
それに、このファンデーション…すごく伸びが良いですね。」

「私、化粧品のことなんてまったくわからないんだよね。
だから、全部お店の人に任せたから、どこのかも良くわからないけど、お店のお姉さんが私に合う色を見繕ってくれたんだ。」

「そうだったんですか。
本当に美幸さんにお似合いですよ。
それに、このファンデ……私も今度奮発して買おうかしら…」

「ねぇねぇ、野々村さん、髪はこれで良いかなぁ?」



美幸さんは、あれこれと角度を替え、鏡の中のご自分の姿に夢中になられていた。



「え…?あ…あぁ、そうですねぇ……
お顔が華やかな雰囲気になられたから、なにか……あ、そうだ!
髪止めをつけられますか?」

「……なにかあるの?」

「ちょっと待ってて下さい。」



とは、言ったものの……
私が持っているものといえば、若い頃に買ったもの。
変に物持ちが良いから、そんなものもいまだにあって……



(これなんか、どうかしら?)



会社の同僚の結婚式につけるつもりで買ったものの、ラインストーンが派手過ぎるような気がして結局付けなかったもの。
ピンクの花をモチーフにしたもので、古いデザインかもしれないけど、繊細な細工が綺麗でけっこう値も張った。



「美幸さん…これだったらどうでしょう?」

「わぁ、綺麗だね!
野々村さん、これ、借りて良いの?」

「ええ、どうぞ。
……美幸さん、ここの髪をすくって、このあたりでまとめたらどうかしら?」

「私、不器用だから……やってくれる?」

「ええ、良いですよ。」


髪止めは、今日の美幸さんにぴったりだった。
洋服ともチークの色ともとてもよく合っていて……
私と美幸さんは顔を見合せて微笑みを交わした。