(………??)



トイレに行きたくなってふと目が覚めて……
私は違和感と不安感を同時に感じた。
だって、私がいるのは見知らぬ部屋で……
ここがどこなのか、いつどうして連れてこられたのか、まるで記憶がない。
頭も痛むけど、傷らしきものはなくて……
広がっていく不安に私の鼓動は速くなる。



落ちつかなきゃ……
えっと、今日は普通に仕事に行って……
あ、そうだ、帰りに野々村さんと会っていつものファミレスに行って……
……あ、ビールを飲んだんだ!
シュウさんや純平君のことを野々村さんに話してたら、悔しいやら悲しいやらなんだかよくわからない気持ちになって…それで、私にしたら無茶な飲み方をして……



(えっ……!?)



もしかして、帰り道におかしな男にでも声をかけられて……
服はちゃんと着てるけど……まさか……



私は、兄さんに電話をしようとバッグを探したけど、私のバッグはあたりにはない。
とにかくここを逃げなきゃいけない!
私は足音を忍ばせ、部屋を出た。
暗いけど、真っ暗じゃないからだいたいの雰囲気はわかる。
リビングを通って、玄関に行くと私の靴と女性物の靴が並べて置いてあった。
そこにあった黒い何の飾りもないシンプルなパンプス…私はその靴に見覚えがあった。
でも、念のため、鍵を開けて外へ出る。
表札には「野々村」の文字。



(ここって、野々村さんの家……?)



私は恐る恐る家に戻って、部屋の様子を探ってみた。
リビングの横に階段を発見。
音を立てないように上って行くと、音がする部屋があった。
キーボードを叩いてるカタカタいう音だ。
ドアノブを握り締め、そーーーっそれを回す……



「野々村さん!」

「わっっ!!」



野々村さんは大きな声を上げ、椅子からずり落ちそうになった。



「み、美幸さん!」

振り向いてそう言った途端、野々村さんは椅子からずり落ちた。



「あ…ご、ごめん!
驚かせちゃったね!
大丈夫!?」

「だ、大丈夫です。
それより、美幸さん……どうかされましたか?」

野々村さんはゆっくりと起きあがり、椅子を元の場所に戻した。



「どうかって……
私…………あ!野々村さん!
トイレどこ!?」

トイレに行きたくて目が覚めたことを思い出したら、私は急にトイレに行きたくなって……



「あ、大変!
トイレはこっちです!」

私は案内してくれた野々村さんの後を慌てて着いて行った。