「純平、今ちょっと良いか?」

「あ、シュウさん…はい、もちろんです。
なんですか?」

勢いでつい声をかけてしまったものの、突然、ひかりの話をするのもなにやら不自然だ。
しかも、「あの女はおまえの想ってるような人間じゃない」なんて言うのは……



「あの…たいしたことじゃないんだけど……」

声をかけてしまった以上、なにか話さないといけなiが、一体、何を話せば良いかと考えているうちに、俺の頭に名案が浮かんだ。



「この前、ほら……高見沢大輔を避けるために、あの女の子を送って行っただろ?
あの時、俺、間違えてプライベートの名刺を渡してしまったみたいなんだ。
暗かったし、降りる間際で焦ってたんだろうな。
確か、最初に来た時に名刺を渡してなかったんじゃないかって思ってな…」

「そうだったんですか。
それで、ひかりちゃんから何か連絡はあったんですか?」

それは、俺にとっては酷くいやな質問だった。
普通なら誰だってすぐに連絡をして来ることは、純平にだって想像はつくだろう。
なのに、あえてそんな質問をするのはどういうことだ?



「いや……ない。
だから、気にすることもないのかもしれないが……
もし、連絡を取るようなことがあれば、あれは捨てるように言ってくれないか?」

「あ…はい、わかりました。
ちょうどメールしようと思ってましたし、伝えときます。」

やっぱり、純平はあの子と頻繁に連絡を取り合ってるんだな…
だからなのか?
あの子は、俺なんかには興味がないと純平に言ってるのか?
だから、純平はさっきみたいな質問をしたのか?



「純平……」

「はい。何ですか?」

喉元まで出かかった言葉を、俺は無理やり飲み込んだ。



『あいつは、おまえが思ってるような女じゃない。』



いずれは話すつもりだが、今はその時ではないだろう。
もう少しだけ様子をみよう。
だが、純平があいつに本気になる前には話さなければならない。
その時のことを考えると、今から胸が痛む。



「シュウさん……?」

「すまないが、よろしく頼むな。
じゃあ……今日も頑張っていこうぜ!」

俺は、もやもやする気持ちを振り払うように、純平の背中を景気良く叩いた。