(……どうかしてる…)



俺は、なにをやってるんだ?
プライベートな名刺まで渡してしまうなんて……まともじゃない。



「シュウさん、さっきの子、誰なんですか?」

「……俺もよくは知らない。」

「え……!?
だったら、なんで…?」

良太が、驚いた顔をしてミラー越しに俺をみつめた。
それも当然だ。
あいつは…俺が気にするような相手じゃない。
そりゃあ、今日はこの前に比べたらマシだった。
努力してるのはわかるけど、俺が今まで付き合って来た女とはレベルが違う。
しかも、アニメが大好きなオタクだぞ。
良太じゃなくったって、不思議に思うさ。



「大河内さんと親しいからな。」

「あぁ……」

良太は納得したように、大きく頷いた。



そうだよな…
俺がわざわざ店を抜け出して送って行くなんて、余程の理由がなければあり得ない。
大河内さんは、店の入ってるビルのオーナーだし、大切な人だ。
その人と親しいからということ以外に、俺がこんなことをする理由はない。



だが……
それとは違うことは自分でもわかっていた。
そんなことは、誰かに頼めば良いことだ。
良太だけに送らせても良いし、ハイヤーを呼んでも良い。
なのに、俺はどうしてここまで着いて来た?
しかも、名刺まで渡すなんて……



(畜生……!)



自分で自分の気持ちがわからない。
こんな事、滅多にないのに……


全く、あいつに関わるとろくなことがない。



「良太!
まっすぐ帰らず、ちょっとそのへんを走ってくれ。
そうだな。
どこか夜景の綺麗な場所にでもやってくれ。」

「え…?
良いんですか?」

「あぁ、少しくらい構わない。
……今夜はちょっと、ややこしい客がいるからな。」



咄嗟に口にした言い訳と同時に、高見沢大輔の顔が思い浮かんだ。
そうだ、俺は高見沢大輔から逃れるために、こんなことをしたんだ。
彼も大河内さんの知りあいだからそう無下には出来なくて、そのストレスで俺はこんなことをしてしまったんだ。



(きっと、そうだ……)

良太に気付かれないように、俺は小さく頷いた。