「はい、出来あがり!」

タカミーさんの大きな手が、私の肩をぽんと叩いた。
目の前の鏡に映っているのは、もちろん私だけど、いつもとはちょっと違う私で……



「美幸さん、すごく綺麗ですよ!」

「ほんに、いつもとは別人みたいじゃ。」

「も、もう!おじいさんったら!」

自分で言うのもなんだけど……今日の私はけっこうイケてる!
私の一番のコンプレックスだった目なんて、いつもの倍はあるよ。
信じられない……
あぁぁぁ…なんだか感動して涙が出そうになって来た。



「さ、次は野々村さん、そこにかけて!」

「え…わ、私は今日は……」

「ぐだぐだ言わない!
前よりはマシになったけど、まだ昭和の香りが漂ってるわ。
ささっと手直しするから早く座りなさい!」

「は、はいっ!」



私はまだタカミーマジックから覚め切れず、鏡の中の自分をみつめてぼーっとしてた。
気持ち悪いことはわかってるけど、嬉しくてたまらないよ。
いつもは鏡を見るのなんて大嫌いなのに、今はいつまでだって見ていたいような気分だ。
あの可愛くない細い目が、なぜにこんなにぱっちりになるんだろう?
つけ睫毛ってすごいもんなんだってことに、私は、今日初めて気が付いた。



「はい、これで良いわ。
髪はそのままで良い?
それともこの前みたいにする?」

「あ、今日はこのままで……
どうもありがとうございます。」

「じゃあ、待っててね。
すぐに着替えて来るから。」



タカミーさんがスタッフルームのドアを閉めた音で、私ははっと我に戻った。
野々村さんはさっきよりもまた一段と綺麗になってて……シュウさん達、きっとびっくりするだろうなぁ……え?……まさか、純平君…野々村さんにメロメロになったりしないよね?



(わ……)



野々村さんに嫉妬してる自分に気付いて、我ながらびっくりした。
こんなこと考えるなんて……も、もしかして…私、純平君に恋してる…!?



「……ひかり、どうかしたのか?
顔が赤いぞ…?」

「な、な、なんでもないよ。
ちょっとここ暖房効きすぎだよね?」



う、うわー……
私が「恋」だなんて、キモいよ、柄じゃないってば。
でも……だったら、このドキドキは何だってのよ!?

ますます混乱して来る私の心……やばいよ、やばいよーーー!