「おかえり、美幸ちゃん。
ごはんは?」

「あ、ごめん。今日は野々村さんと食べて来たから……」

「じゃあ、ココアでも飲む?」



私が帰ったのは、テーブルの様子からして男達がちょうど食事を終えた頃だった。
いつもならすぐに部屋に戻るんだけど、ついうっかりと野々村さんと食べて来たって言っちゃったから、おごってもらったことを兄さんに言っとかないとまずそうだ。
だから、私もココアをいただくことにした。



「うん、じゃあ、お願い。」

「昨夜、野々村さんと食事をしたんだろう?
今日も会ってたのか?」

「え…う、うん。
そ、その……昨夜、別れ際に、野々村さんが近いうちに靴を買いたいとかなんとか言っててね……
その時は特になんとも思わなかったんだけど、今日、ふと、足元を見たら、私の靴も相当くたびれて来たなぁって思って…そしたら、なんだか急に靴が欲しくなって、野々村さんに靴を買いに行かないかって誘ったんだ。」

ちょっとだけ嘘を吐いた。
だって、私から靴のことを言い出したってなると、なんか疑われそうな気がしたから……



「おまえは本当に計画性がないな。
野々村さんも忙しいんだから、あんまり引っ張りまわすんじゃないぞ。」

「……うん。」

「美幸ちゃん、どんな靴買って来たの?
見せてよ。」

おしゃれなアッシュさんに見せるような靴じゃないけど、そう言われたら見せないわけにもいかない。



「……これ。」

「あ、けっこう可愛いじゃない。
美幸ちゃんがブーツとは意外だね。
しかも、ピンクだし。」

「う、うん。
ちょっと派手じゃないかなって言ったんだけど、野々村さんがすすめてくれたから。
そ、それに、ほら…兄さんもちょっとマシな格好した方が良いって言ってたし……」

私がそう言うと、兄さんはいつもの鋭い視線を私に向けた。
……な、なにか、まずいこと言った!?



「ま、今のあのスニーカーよりはずっとマシだな。」

……怒ってなかった。
私はとりあえずほっとして胸をなでおろした。



「あ、それでね。
靴にお金使ったから、今夜は家で食べようと思ってたんだけど、野々村さんがおごってくれるって言うから……」

「おごってもらったのか!?」

兄さんの瞳が鋭く光った。
怒ってる…今度は間違いなく怒ってるよ…!
ど、どうしよう!?