「ねぇねぇ、今まではどこで髪切ってたの?」

高見沢大輔の他愛ない質問が続く。



「それなら、駅ビルの……」

答えかけた時、俺の視線は偶然最悪のものを捕えてしまった。
なんとも言えない穏やかな笑みを浮かべて、目と目を見交わす野々村さんと大河内さん……



俺は咄嗟にそこから視線を逸らした。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのように……
鼓動が急に速くなる。



なんだ…?
俺は、なぜこんなに動揺してるんだ?




「カズ…どうかしたの?」

「いや……そんなことより、これからは俺達の髪をやってもらえるか?」

俺は懸命に平静を装い、そんなことを口走った。



「もちろんよ!
絶対に来てちょうだい!
カズのためなら、私、いつでも時間あけるから!」

「ありがとう、頼むよ。」



わかってたことなのに……
野々村さんと大河内さんが付き合っていて、近々結婚するかもしれないってことはわかってたはずなのに、なんだ、さっきの衝撃は……



とてもじゃないが、誰も入りこめないようなあの二人の雰囲気に感じたあのおかしな感情は何なんだ!?



そうだ…悔しいんだ……
あんなじいさんに負けたことが…俺はどうしようもなく悔しいんだ。



「あ、そういえば、デザートもあったんだ。
タカミー、甘い物食べるでしょ?」

「え?そうなの?
じゃあ、いただくわ。」

「美幸ちゃん達も、甘い物食べるでしょ?
準備するからこっちにおいでよ!」

マイケルがそう言って三人を手招きする。



「あ、そうだ!
忘れてた~!
ケーキがあったんだ!」

「美幸、さっきあんなに食べたのにまだ入るのか?」

「甘い物は別腹だもん。」

マイケルの言葉に、嬉しそうな笑顔を浮かべ、美幸達がやって来た。
野々村さんと大河内さんの顔を見たくなくて、俺が灰皿の灰を捨てるふりをして立ちあがった時、玄関のチャイムが鳴った。



「誰だろう…こんな時間に…」

「俺が出るよ。」

誰かはわからないが、本当にタイミングの良い訪問者に、俺は心の中で頭を下げた。