(あ……)



ふと見ると、トイレから戻った大河内さんが美幸達の傍に座り、なにやら楽しそうに話していた。



(何を話してるんだろう…)

三人は顔を付き合わせるようにして、何事かを話しこんでいる。
そりゃあ、大河内さんや野々村さんは楽しいだろうが……
美幸まで混じって一体何を話しているんだ?



「ねぇねぇ、そういえば、野々村さんの好きな人って一体誰なの?」

高見沢大輔のいやな質問が耳をかすめた。



「えっ!?タカミー、知らないの?」

「アッシュ…プライベートなことはあんまり言わない方が良いぞ。」

アッシュは今にも話してしまいそうだったから、俺は慌てて釘を刺した。
……道徳ぶったことを言ってしまったが、本当は俺がそういう話をしたくないからなのかもしれない。



「えーーっ!みんな知ってるなら教えてよ!」

「ま、きっとタカミーにもそのうちわかるよ。」

「まぁーっ!本当に意地悪ね!
いいわよ、すぐに当ててみせるから…
あ……でも、まだその想いは成就してないんでしょ?」

「そうでもないんだよ。
もしかしたら、近々おめでたい発表があるかもしれないよ。」

マイケルのその言葉に、俺は不快なものを感じた。



(今更、気にしたってどうなるわけでもないのに……)

自分の女々しさに腹が立ったが、それを悟られないように俺は平気な顔で酒を飲み干した。



「まぁ、そうなの!?もうそんな所まで?
この間の雰囲気じゃ、まだ告白もしてないのかと思ってたわ。
へぇ……あの野々村さんが、ねぇ……」

高見沢大輔が野々村さんとどんな話をしたのかは知らないが、彼はとても意外な顔で野々村さんに視線を移す。



「……ま、他人のことなんてどうでもいいわ。
私にとって大切なのは、カズと私のことですもの。」

高見沢大輔の大きな手が、俺の太股に重ねられた。
アッシュとマイケルは、すぐにそれに気付いて肩を震わせ笑いを噛み殺している。



(おまえら~~…)

きつい視線で俺が睨んでも、二人はまだくすくすと笑い続けていた。