「でもね……違うんだってさ。」

「……違うって……何がですか?」

「だからね。
今日、来る筈の人は彼女じゃなくて、友達なんだって。」

「え……そ、そうなんですか?」



(友達……?)



馬鹿みたいだけど、その言葉を聞いたら、なんだか急に元気が出て来た。



「きっと、本命じゃないってことだよ。
本当に女たらしなんだから……
あ、そういえば、さっき、野々村さんにもおかしなこと言ってたけど、はっきり断らなきゃだめだよ!
野々村さんが本当はこんなに綺麗だってわかったら、マジで言い寄って来るかもしれないからね。」

「ま、まさか…あんなのは冗談に決まってますよ。
あ、青木さんが私なんかのこと、そんな……」

「いや、ありうるよ!
だから、真剣に考えなきゃだめだよ。
仕事のこととか考えずに、いやなものはいやだってはっきり断らなきゃ…!」

「え……」



どうしてだろう?
美幸さんはまるで私が青木さんを嫌いとでも思ってらっしゃるような言い方だ。



(……たとえ、本気じゃなくっても……一時の暇つぶしでも青木さんとお付き合い出来たら……
そんな嬉しいことはないのに……)



「あ、あの……」



私が話しかけた時、お湯がわいたことを知らせる甲高い音が響き渡った。



「野々村さん、そこのカップ取ってくれる?」

「あ、はい。」



ただでさえ話しにくいことではあるけど、お湯がわいたせいで話すタイミングをすっかりなくしてしまった。



「タカミーさんのは濃くって言ってたけど、どのくらい入れたら良いのかな?」

美幸さんがインスタントコーヒーの瓶を前にして、困った顔でそう訊ねられた。



「あ、私がします。」

「私はココアにしようっと。
野々村さんは何にする?」

「私は…お茶をいただきます。」



またいずれ機会をみて、美幸さんにはお話……
……いや、話す必要なんてないのかもしれない。
青木さんがおっしゃったことはただの冗談なんだもの。
私はそんなことがわからないような年令じゃない。



(……でも、嬉しかった……)