(ど、どういうこと……!?
青木さんは、なぜあんなことを……)



信じられない想いだった。
まさか本気じゃないと思うけど、青木さんがあんなことをおっしゃるなんて……



「それは残念だなぁ…
野々村さんに好きな方がいらっしゃらないなら、俺が立候補しようかと思ってたのに……」



さっきの青木さんの言葉が、頭の中をぐるぐる回る。



「美幸、タカミーにコーヒーをいれてやってくれ。
出来るだけ濃いやつをな…!」

タカミーさんがトイレに立たれた時、青木さんが小声でそう言われた。



「あ、美幸…わしも頼む。」

「うん。わかった。」

「あ、私もお手伝いします。」



私も美幸さんと一緒に台所へ向かった。
青木さんの言葉がなかなか頭から離れなくて、なんだかとても恥ずかしくてその場に居辛かったから…



「ねぇ、タカミーってこの前とすごく雰囲気が違うと思わない?
あっち系の人だってことは聞いてたけど、この前はあれほど女言葉じゃなかったよね。」

やかんを火にかけ、私達は台所の椅子に腰掛けた。



「多分、お店では先生って立場もおありでしょうし、今日はお酒も飲まれてるからじゃないですか?」

「あぁ…なるほどね。
でもさ、タカミーが兄さんのこと好きだって…あれ、本気なのかな?」

「さ、さぁ……どうでしょう?」

「もしタカミーが本気だったとしても、兄さんはその気はないんだよ?
あんなに女好きなんだから。
でも、それが急に変わったりするってことなんてあるのかな?
男に目覚めるなんてことが……」

「さ、さぁ…?」



そんなこと、多分、ないとは思うけど……
でも、絶対にないとも言えない。
タカミーさんと青木さんの並ばれた様子は、若い女の子がキャーキャー言いそうなちょっとあやしい雰囲気に見えないこともない。
なんせ二人共美形だし、体格も良くて、BLのキャラクターとしてはぴったりで……



(不思議だわ…青木さんが女の人と仲良くされてるのを見ると辛いのに、タカミーさんとだとなんだかほほえましくさえ思える…
……あ、そういえば……)



「あ、あの…美幸さん…」

「何?」

「あの……そ、そういえば…今日は青木さんの彼女さんが来られるってお話だったのでは?」

「あぁ、あれ…なんだか仕事で来られなくなったんだって。」

「そうだったんですか……」



やっぱり聞かなきゃ良かった…こんなこと。
聞いた途端に、私はなんだか急に気が滅入るのを感じた。