「や~だ!
アッシュったら!」

高見沢大輔は、飲み会をしようと言い出した割には酒にはとても弱かった。
美幸や野々村さんと変わらない程度だ。
彼の頬はすぐに赤くなり、声は大きくなるしやたらと笑い、そして、やたらと俺にべたべたする。
さっきからは、腕を組んで俺の隣から離れない。



「……タカミーよ。
今日はえらくご機嫌じゃないか。」

「あったりまえじゃない!
女は好きな男の傍にいられることが、一番幸せなんだから。」

そう言うと、高見沢大輔は焦点の少しおかしくなった瞳で、俺をじっとみつめた。



「えーーっ!ま、まさか……
タカミーさん、兄さんのことが好きなの!?」

「そうよ、大好き!
わざわざこっちにお店出したのだって、いつかカズに会えるかもしれないって思ったからなんだもの。」

「そ、そんな……だ、だって、兄さんは……男だし……」

「そうよ。
カズが男で、私が女。
だから、問題ないじゃない!?」

「え……あ、そ、そっか……」

美幸は心配そうな顔で、俺の方をちらりと見た。
あいつは真面目だから、本気で心配しているのかもしれない……



「美幸ちゃんも早く好きな人をみつけなさいよ!
恋は素敵なものよ!
女をどんどん綺麗にしてくれるわ。」

「なぁ~るほど…!
だから、野々村さんはそんなに綺麗になったんだね!」

アッシュが、そう言って意味ありげな笑みを浮かべた。



「なに?
野々村さんも好きな人がおるのか?」

「えっ!?わ、私…そんな……」

慌てて俯く野々村さんとは裏腹に、大河内さんは顔色一つ変えずにそう言った。



とんだたぬきおやじだ。
俺達は、皆、野々村さんとのことを知っているというのに……
なんだか、その一言が無性に俺の癇に障った。



「それは残念だなぁ…
野々村さんに好きな方がいらっしゃらないなら、俺が立候補しようかと思ってたのに……」

俺がそう言うと、野々村さんは驚きに満ちた顔を上げ、丸い目をまっすぐ俺に向けた。



「まぁーーっ!
私という者がありながら、よくもそんなことをぬけぬけと…!」

「い、いたっ!」

タカミーに思いっきり腕をつねられ、俺は思わず声を上げた。
ふと移した視線の先に、大河内さんの驚いたような顔を見た途端、俺はその痛みを忘れて思わずほくそ笑んだ。