その時、玄関のチャイムの音が軽やかに響いた。



「あ、俺が出るよ。」

なんとなくその場に居辛かったこともあり、俺はそう言い残し玄関に向かった。
この時間を考えれば、おそらく、訪問者は野々村さんか高見沢大輔だ。
どちらにせよ、簡単に挨拶だけしてすぐに居間に通せば良い。



「あ……こ、こんばんは!」

「……え?」



扉を開いた先にいたのは、白いロングコートをまとった見知らぬ女性。
品が良く…なのに、大人の色気が漂うスレンダーな美人だ。
俺は俄かに顔が熱くなり、ひさしぶりに心がときめくのを感じた。
女性は驚いたような声で一言発したっきり、俯いたまま顔を上げない。
何も驚くようなことはない筈だが、どうしたんだろう?
そんなことを考えるうちに、目に映ったやけに落ち付かない彼女の動作……
それに、俺は見覚えがあった。



(……まさか!)



「え…っと。
あの……もしかして、野々村…さん?」

「は、はい!
本日はお招きどうもありがとうございました。」

「え……ほ、本当に野々村さん?」

「は、はい。」



間違いない。
この口調やこの声は、確かに野々村さんのものだ。
でも…姿が違う。
顔も髪型も着ているものも、いつもの野々村さんとはまるで違う。



(あ……)

俺はその時不意に思い出した。
そうだ…野々村さんも、俺達と同じく、高見沢大輔の店で髪をいじってもらったんだ。
そういえば、美幸が言っていた。
野々村さんはすごく変わったと…
だけど、ここまで変わってるなんて俺は想像してなくて……
変わったどころか、これじゃあ別人じゃないか。




「野々村さん…すごく変わられたから、わかりませんでした。」

「す、すみません。」

「なにもあなたが謝ることじゃない。
それに……変わったっていうのは……あまりに、きれ……」



「わぁ!野々村さん!
今日はすっごく綺麗だね!」



俺が思わず素直な感想を口にしかけた時、ちょうど美幸が現れて俺の声をかき消した。



「美幸、早く入ってもらえ。」

そのことが急に恥ずかしくなった俺は、その場から逃げるように居間へ戻った。