「……残念だったね。」

「ま、仕方ないさ。」

アンリが仕事で来られないという話をしたら、マイケルはどこか困ったような笑みを浮かべた。
きっとそれは俺を気遣ってのことだろう。
だが、実際の俺はというと、強がりでもなんでもなく、それほど落胆はしていなかった。
アンリが来てくれれば、大河内さんや高見沢大輔の手前、都合が良いというそれだけの理由だったから、俺にも罪悪感のようなものが少しあった。
だから、来られないと言われた時には、逆にほっとしたくらいだった。



アンリが来ても来なくても、俺が大河内さんに負けた現実は変わらないのだし、もう気にするのはやめよう。
高見沢大輔のことだけは多少心配だったけど、俺にその気がないとわかればそのうち彼も諦めてくれるだろう。



「それはそうと、カズ……
昨夜のブログ、かなりのアクセス数だったね。」

「あぁ……そのことで、高見沢さんからメールが来てたよ。」

俺は、今朝来た高見沢大輔からのメールを、マイケルに見せた。



「わ…すっごいハートの嵐だね。
……ま、とにかく喜んでもらって良かったじゃない。」

「……そうだな。」

まるで女子高生からのような派手なメールが朝からもう二回も届いている。
最初は、ブログで店のことを宣伝してくれてありがとうといった内容で、その次は明日のことが楽しみだという他愛ない内容だったので、気付いていないことにしてまだ返事はしていない。



「野々村さんは大丈夫だよね?」

「大丈夫って?」

「来れるんだよね?」

「あぁ、そのことなら、美幸が連絡してる筈だ。
特に何も言って来てないから、来れるんじゃないか?」

俺がそう答えると、マイケルは怪訝な表情を浮かべた。



「カズ……最近、野々村さんとトラブルでもあったの?」

「……そんなものはない。」

「だけど、カズ……この間もおかしなこと言ったじゃない。
野々村さんを辞めさせたらどうかって…
あの時も僕、なんだか変だなって思ったんだ。」

マイケルの目は真剣そのもので、俺は思わず視線を逸らしてしまった。



「馬鹿。考え過ぎだ。
最近は美幸の方がずっと親しいから、それで頼んだだけじゃないか。」

どんな顔になってたかはわからないが、俺はそう言って出来得る限りの作り笑いを浮かべた。