「やったーー!」



昼過ぎになって、アッシュがメールを見ながら大きな声を上げた。



「……どうし…」

「カズ!すごいよ!
タカミーが髪切ってくれるって!」

「タカミー…?
タカミーって、昨夜、美幸と話してた高見沢大輔のことか?」

「そうそう!」



アッシュは俺が質問する前に、自分から今の歓声の原因を話し始めた。
アッシュはとても嬉しそうだが、俺は逆だ。
タカミーに髪を切ってもらえるようになったということは、どうせアッシュが大河内さんに頼んだってことだ。
どいつもこいつも、大河内さんを良いように遣い過ぎだ。
大河内さんはただのご近所さんだっていうのに……



「仕事が終わったらすぐに来てくれってさ。」

「……そうか、わかった。
じゃあ、今日は早めにあがったらどうだ?
買い物はマイケルに頼めば良い。」

「何言ってんの?
マイケルもカズも一緒に行くんだよ。」

アッシュは、さも当然といった風にそう言いきった。



「は?マイケルはともかく、なんで俺が?」

「だって、そろそろ髪の色変えたいって言ってたじゃない?
だから、三人頼んだんだ。」

「馬鹿言うな。
俺はそんな所行かない。」

「駄目だよ。
この前のことだってあるし、ここでカズだけ行かなかったら、KEN-Gも気にするかもしれないよ。
ご近所関係がぎくしゃくするじゃない。」

「急な仕事が入ったとかなんとか、理由ならいくらでもあるだろう?
だいたい、おまえ達は大河内さんに迷惑をかけすぎなんだ!
高見沢大輔になんて、そう簡単に頼めるはずないだろ?
きっと、今だって予約でいっぱいなはずだ。
でも、大河内さんに頼まれたら高見沢大輔だって無下には断れない。
きっと、仕方なくていやいややってくれるんだ。
そんな所に行くのはごめんだ。」

俺がそう言うと、アッシュは俺の顔をじっとみつめて……



「カズ……KEN-Gが絡むとどうしてそんなに意固地になるの?
もしかして、KEN-Gになにか特別な感情があるの?
ボクの知らない所で、トラブルでもあった?」

「そんなものはない……」

「だったら、どうして?
前からボク、ちょっとおかしいなって思ってたんだ。
……何か言いにくいことでもあるの?」



俺は、アッシュの視線が苦しくて、パソコンを見るふりをしてそっと俯いた。
そんなこと…言えるはずがない。
野々村さんのことで、俺は大河内さんに負けたような気がして、それで苛々してるなんてこと、格好悪過ぎるじゃないか……