「それはそうと、カズ……
モデルのあの子とはうまくいってるの?
昨夜会うとか言ってた……」

「アンリのことか?
あぁ、至って順調だ。
……今度は少し真剣に付き合おうと思ってる。」

「えっ!?
……もしかして、結婚とか考えてるってこと!?」

マイケルは仕事の手を止め、大きな青い瞳をさらに丸くして俺をみつめていた。
そんなに驚くようなことを俺は言ったか?と、却ってこっちが戸惑う程の驚きようだ。



「いや……
……まぁ、成り行き次第ではそうなるかもしれないな。」

マイケルが吹いた口笛の高い音が部屋の中に響いた。



「ついに、カズも年貢の納め時かぁ……」

「おまえ、本当にその手の言葉をよく知ってるな。」

「最初は年貢が何なのかもわからなかったけどね…」

マイケルはそう言って肩をすくめる。



まただ…
また、俺は心にもないことを口走ってしまった。
アンリと付き合うつもりがあるのは本当だ。
だけど、「真剣に」という言葉は的確とは言えない。
俺はただ誰かに夢中になりたいという自分勝手な気持ちからどう考えただけだ。
誰でも良いわけではないが、一番手っ取り早いと思えたのが彼女だったというだけで、彼女との結婚なんて欠片程も考えてはいなかった。
彼女だけではなく、まだ一緒に暮らしたいと思う女性はいない。
若い頃から家を出て、家庭というものに馴染みが薄いせいなのか、女性ともずっと一緒にいると妙に息が詰まる。
男だと不思議とそういうことはあまり感じないのだけれど、女性とは一泊がせいぜいだ。
何日もというのは……あ……



俺はふと思い出した。
そういえば、一緒にいても圧迫感のようなものを少しも感じない女性が一人だけいた。
……野々村さんだ。
亜理紗との一件があって、かくまってもらっていた時、何日も一緒だったが俺は不快感を感じなかった。



……いや、それはきっと野々村さんとの間には恋愛感情がないからだろう。
彼女に対しては何の感情も持ってないから……だから……



(……きっと、そうだ。)